第二回 ハラスメント対策・防止のルール策定に向けたレクチャー・ワークショップ レポート報告
2023/11/30
レポート報告
【第2回】ハラスメント対策・防止のルール策定に向けたレクチャー・ワークショップ
2023/08/23 @stiffslack
当店では、2023年6月12日に行われた「ハラスメント対策・防止のルール策定に向けたレクチャー・ワークショップ」に引き続き、ジェンダー・セクシュアリティの専門家である堀あきこさん(関西大学他非常勤講師)を講師としてお迎えして、2023年8月23日に第2回目の「ハラスメント対策・防止のルール策定に向けたレクチャー・ワークショップ」を開催しました。その内容についてご報告いたします。
※【ご注意事項】※
第2回のレクチャーでは第1回のレクチャーよりも踏み込んだ内容となっております。本レポートにも性暴力被害に関する記述が含まれており、本レポートをご覧いただくだけでも、フラッシュバックが起こったり、精神的緊張が高まったりする可能性があります。ご注意いただきつつ、ご関心のある方にご覧いただけますと幸いです。
前半は、堀さんによるレクチャー、後半は参加者を4グループにわけてドラマ『ハートストッパー』のあるシーンを題材に参加者の意見を交換するワークショップという形式で開催しました。
1 レクチャー
第2回のレクチャーでは、「ハラスメントが起こる力学を考え、ワークショップを行う」ということをテーマに下記のアジェンダに沿って、レクチャーを行っていただきました。
■アジェンダ
①前回の内容の振り返り
②落ち度探しと二次加害ー「そんな格好してるから被害にあうんだ」
③被害者イメージとアンコンシャス・バイアス
④「いやだ」といえない背景ーなぜ性的同意が重要なのか
■まず、第1回のレクチャー・ワークショップの内容の振り返りを行っていただきました。
第1回では、誰もが持っているアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見、「これが普通」という感覚)がハラスメントの原因となっており、セクシュアルハラスメントに関しても、「男らしい」、「女らしい」などの固定的な性役割や、「男は仕事、女は家事育児」などの性別役割分業を当然とする言動が原因や背景になっていることといったハラスメントの内容や構造的な問題点について確認しました。
また、ハラスメントが発生したり、ハラスメントを受けた方から相談を受けたりしたときに、どのように対応するべきなのかについても改めてご紹介いただきました。その際に、重要な事項として挙げていただいたのが下記の点になります。
• 真摯に対応する(真剣に耳を傾ける) 。
• 共感的・受容的に対応する(相談者の感情や考えをそのまま受け止める。「あなたにも問題がある」という否定的な対応は二次被害を招く恐れがある)。
• 被害者の気持ちを代弁したり、指示したり、わかったつもりにならない。
• プライバシーを守る。
• 相談者はどうしたいのかを確認する。
•相談されて受け止めきれないときや悩んだときは、相談者の了解を得て、相談できる機関や他の人に相談する。
■次に、被害者の行動を問題視する「被害者バッシング」=二次加害が、なぜ発生するのかについてご説明いただきました。
人々は「世界は公正に成り立っている」(良いことをしている人は報われ、悪いことをしている人は罰せられる、自業自得、因果応報)と信じたがる認知バイアスを持っているというメルビン・J・ラーナーの「公正世界信念」という概念があり、「公正世界信念」の強い人が、被害者バッシングを行う傾向があることをご紹介いただきました。
何らかの事件が発生した場合、人々は、その事件が行った「原因」をさかのぼって考え、不公正な出来事が発生した場合には、その出来事を公正世界信念に合致するように再解釈することがあり、例えば、痴漢という「悪い結果」の原因には、「肌の露出が多い服を着ていた」という被害者の「悪い原因・行い(=落ち度)」があったからではないかと考えることがあると説明いただきました。
そもそも、痴漢をして良い服装、痴漢をして良い人など存在しないにもかかわらず、このような被害者側の落ち度探しとそれによる二次加害の発生の構造について、 DJ SODAさんへの被害者バッシングなどの具体例も踏まえながら、ご紹介いただきました。
■さらに、被害者への二次加害は、被害者の自責を強めるとともに、加害者の他責を支援してしまうものであり、ハラスメントや性被害の事案において、アンコンシャス・バイアスに基づく被害者に対する二次加害が、より被害回復を困難にしていることについてご紹介いただきました。
◼このような状況の中で性被害を発生させないようにするためには、性的同意を得ることの重要について説明していただきました。ご紹介いただいた中で、下記のある被害者のインタビューの発言が性的同意とはどういうものなのかをイメージするうえで参考になりましたので、本レポートでも引用したいと思います。
「何か今の旦那さんと出会ったときは、〔...〕性行為とか、そういう性欲ではない部分 で、こんなに尊敬してもらえるんだなっていうか、大事にしてくれるんだなってことで、 うん、あの、気付いたというか、人間、同じ人間なんだなっていうことが、うん、分かった。 全ての日常的な仕草で、[...]こう何ていうのかな、従わなきゃいけないとか、従わせ なきゃいけないみたいな、主従関係っていうか、そういうことがないっていうか。嫌なと きは嫌って言っていいっていうのが。日常的な、例えば、メニューを選ぶときとか、どこ に行きたいっていうこととかも含めて(こちらの意向を聞いてくれる)。よく考えたら、 (それが、性生活も含め)全てのことに影響するんだろうなって思う。(38歳,女性,イ ンタビュー)」
齋藤, 梓; 大竹, 裕子「当事者にとっての性交「同意」とは : 性暴力被害当事者の視点から望まない性交が発生するプロセスをとらえる」『年報 公共政策学』 13, 185-205
2 ワークショップ
後半のワークショップでは、ドラマ『ハートストッパー』のあるシーンを題材に、数人のグループにわかれて議論し、グループごとに発表することになりました。
https://www.netflix.com/jp/title/81059939
■『ハートストッパー』は、Netflixで配信されているイギリスのドラマシリーズです。今回、ワークショップで取り上げられたのは、ゲイであることをアウティングされてしまっている高校生の主人公チャーリーに対して、元恋人のベン(ゲイであることを周囲に明かしていない)が無理矢理キスをするシーンと、後日、転校することになったベンが、チャーリーを呼び出して謝罪をするシーンです。チャーリーは、ベンに対して謝罪自体は受け入れるけれど、ベンのことは許さないと伝え、ベンの元を立ち去ります。このシーンを元に性加害と謝罪に関してグループにわかれて議論をすることになりました。
■グループで議論を行うにあたってのグランドルールとして第1回同様、下記のルールが設定されました。
【グランドルール】
・人の意見を最後までしっかりと聞く。途中で遮ったり、自分の意見にこだわったり、否定的な表情や態度ではなく、尊重すること。
・発言する時は自分の考えや根拠を明確にする。感情的になったり、一方的に主張したりせず、相手が理解しやすいように話すことを心がける。
・無理して話さなくてもよい。沈黙はOK。
・ハラスメントに該当するような言動は絶対にしない。
・公平性を保つために、一人で長々と話し続けない。
・話した内容は秘密にする。参加者以外の人に漏らしたり、悪口や噂話にしたりしない。プライバシーを守る。
・この場所が「対等な関係」となっているか、注意する。
■各グループで議論した後に、各グループの発表の時間が設けられました。各グループの発表の概要は下記のとおりです。
[グループA]
加害者の行動によって被害者の気持ちが変わることはあるのかなということを考えました。加害者側は謝罪をして一旦の区切りが付くかもしれないが、だからといって被害者側にはされたことは残り続けてしまう。なので謝ることで再度ダメージを追わせてしまうこともあるのかとも思うという意見もありました。
また直接の謝罪ではなく代理人を通すケースもあるよねという意見があったり、諸々を踏まえた上で良い方向へ向かわせるためには周りの第三者のサポートというものが
必要なのではないかという話もしましたが、そこでも色々なハードルがあったりして
難しさも感じました。また加害者はあくまで加害者なので、まずは自分で加害を認識するというところがスタートではあるよねという意見から、加害をしている、していたことに気づけないケースも多々あるので、そこでも第三者から指摘されて気づけることもあるよなという話が出ました。今回のワークでは被害者に謝罪をすることが必ずしも良いことなのかどうかでグルグルしてしまいましたがワークの中で出てきた意見は以上です。
[グループB]
ワークの内容がまとまる前に時間ぎれになってしまったので、議論の羅列になってしまいますがご容赦ください。
まず、ワークの出発点として謝罪をしたこと自体は認めてあげても良いよねという話から始まったのですが話し合いを進めていくうちに、加害者側は謝ることによってすっきりしたかったという自分本位な感覚で謝ったら許してもらえるくらいに思っていたのではないか?とか、例えば会社の中でこの類の事案が発生した場合、丸く収めるような雰囲気にはなるがわだかまりは残りますよね等の意見が出ました。
また謝ったんだから許してあげなよみたいな同調圧力も発生しがちであるという
意見から、謝った側はそこで一区切り付くが、被害者側はそこで許すのか許さないのかの判断に迫られる点は非対称であるという意見が出ました。また謝った側は謝った後は変わって行かなきゃいけないけど、変わっていくことに対する恐怖心ももちろん存在するよねという意見、我々音楽好きも大きな世の中からすればマイノリティの枠に
位置すると思うので、性的マイノリティを学んで自身を鑑みることは大事なことだよねという意見が出ました。
[グループC]
まず、参照したドラマの感想から話を広げて行きました。
謝ったことに対して許せなかったことが意外だったという意見や加害者側は自分が
許されたいがために相手のペースや感情を考えずに自分本位な行いのように感じさせてしまったのがまずよくなかったのではないか?という意見が出ました。
またこの加害者側ができることはなんなんだろうという会話になったのですが、被害者側を傷つけてしまったことは変えることはできないので、相手に謝罪してすっきりするということではなくやってしまったことを都度省みながら繰り返さないよう努力していくことなのではないかという意見が出ました。
[グループD]
こちらのグループでは加害者側、被害者側の気持ちをそれぞれ想像しながらの意見交換となりました。どちらに対しても結論というということには至っていないので、
意見の羅列のような形の発表となりますがご容赦ください。
まず被害者の方がこのドラマが進んで行った先でやがて摂食障害になってしまうということなので、やはり一度受けた傷は癒えることはなかなか難しく、重いのだということ、またこのドラマの中での加害者側が謝罪しようと思ったということ自体は良かったのではないか、しかし被害者側の気持ち、許すか許さないかは被害者次第で、仮に
許すとしてもそのタイミングは被害者次第なのでそのような想像力を大きく欠いていたことがよくなかったのではないかという意見、またこのドラマの中で許されることが無かった加害者にできることはなんなのか?という話になり、このドラマの被害者がおっしゃっていた通り彼のような思いを今後誰もしないように加害者側が考え続け
実践していくことしかないというところで時間切れとなりました。
■グループでの発表が終わった後で、質疑応答が行われました。その中で、堀さんが過去に受けた性暴力被害とそのとき、誰にも相談できなかった背景などもお話いただきました。被害を訴えるということについて、参加者の多くが深く考える機会を得られる場となりました。
3 ハラスメント対策・防止のルール策定に向けたレクチャー・ワークショップの所感(新川拓哉)
6月、8月の2回にわたり、講師としてレクチャー・ワークショップを行ってくださいました堀あきこ先生、また、ご参加いただきました皆様、誠にありがとうございました。
今回のレクチャーでは前回の内容からより深く掘り下げた内容をレクチャーしていただきました。今回はより直接的に自身の認識の甘さや低さを考えさせられると共に、一度でも被害者を傷をつけることが取り返しのつかないものであること、私のハラスメント行為に対する告発を受けて発生させてしまった二次加害というものが被害者に及ぼす攻撃性、危険性、残虐性などについて学ばせていただきました。特に二次加害というものに対してあまりにも無知であった、想像力が欠如していたと感じています。深く根付いてしまっていた無意識の思い込みや偏見を正していくためにはこれからも学び続けていくことしかできないと感じています。
また私自身と当店スタッフと今回、前回のレクチャーを反芻、振り返りを行い、改めて今後どのようなお店にしていくべきなのかについて話し合いました。
当店が利用していただける多くの皆さんにとって安心して音楽や交流を楽しむことができるセーフスペースとして機能していくためには、私自身がいつのまにか加害者になっていないか、権力関係のもとでハラスメントといえる状況が発生していないかについて常に意識するとともに、当店でもしハラスメントや何かしらの加害行為が発生した場合にどのような対応を取ることができるのかについてルール策定を進め、当店がより良いスペースとなるように努めていかなければならないと改めて考えております。
4 レクチャー・ワークショップを開くことになった経緯
当店において、今回のレクチャー・ワークショップを開催するきっかけとなった経緯について、時系列にしたがって改めて整理いたします。
2021年12月6日:移転前の旧stiffslack店舗にて発生した当店代表新川によるハラスメント行為に言及したツイートが旧Twitter(現X)にて投稿される(以下、ツイート主様を「A様」といいます)。
2021年12月7日以降:新川から受けたハラスメント行為を告発するツイートがA様以外の複数アカウントより旧Twitter(現X)に投稿される。
2021年12月9日:当店旧Twitter(現X)アカウントより、ステートメントを発表。
2021年12月17日:上記ステートメントを撤回(以下、「撤回済みステートメント」といいます)。
2021年12月〜2022年4月:双方代理人間で協議を続ける。
2022年4月7日:A様の事前確認を経たうえでステートメントを最終版として発表。
2022年7月13日:読書会1回目
2022年8月2日:読書会2回目
2022年8月17日:読書会3回目
2022年8月30日:読書会4回目
2022年10月5日:上記読書会の開催方法を改める旨を発表。
2022年10月〜2023年6月:双方代理人間で協議を続ける。
2023年6月12日:レクチャー・ワークショップ第1回目
2023年8月23日:レクチャー・ワークショップ第2回目
新川のハラスメント行為に対するA様の告発を契機として、A様以外の複数アカウントからも旧Twitter(現X)で過去の新川によるハラスメント行為を告発する投稿がなされました。これを受けて、新川は事態を早く収束させたいという気持ちが先行するあまり、撤回済みステートメントを発表しました。この撤回済みステートメントはA様の確認を経ずに出されたものであり、当該ステートメント自体が二次加害と呼べるようなものでした。その後、A様の代理人と協議をし、新たなステートメントを発表しました。新たなステートメントにおいて今後の改善策として読書会を開催し、当店のルールについて策定することをお約束しました。その後、読書会を何度か開催したものの、読書会の運営方法についての知識が不十分のままに開催してしまったこともあり、読書会の当初の開催目的を見失ってしまうような運営になってしまいました。このため、軌道修正を図るため、読書会ではなく別の方法を模索することになり、堀さんをお招きして、レクチャー・ワークショップを開催するということになりました。A様や他の複数のアカウントからのハラスメント行為の告発を受けて、新川は、当時の自身の認知の歪みやジェンダー等に関する意識の低さを認識・反省し、今後、当店を運営していくにあたって、より多くの人に開かれ、かつ安全に音楽を楽しんでもらえるようなお店づくりを行うために、当店のルール策定に向けて、歩みを進めて行きたいと考えております。当初のステートメントにおいては、ルールの策定時期について、ステートメント発表から1年以内に行うと宣言していたにもかかわらず、その時期を守ることができず、申し訳ありません。できるかぎり早めにルールを策定できるように努力して行きたいと考えております。
5 今後に関して
今回のレクチャー・ワークショップを踏まえて、当店では、Aさん、堀さん、Aさんの代理人らと打合せを実施し、次回以降の進め方についてご相談しました。
2回にわたるレクチャー・ワークショップについて、Aさん、堀さん、Aさんの代理人の皆さんに一定程度の効果があったのではないかとの評価をいただき、次回は、当店における「ハラスメント対策・防止のルール」の具体的な案について、参加者の皆さんで議論をし、ルールのβ版を策定するということになりました。
次回の日程に関しては、現在調整中ですので、日程等が決定しだい改めてお知らせしたいと思います。
なお、ルールのβ版を発表した後は、実際に当店でルールがきちんと運用されているのか、足りないルールはないのか、より良い運用方法はないのか、といった点について見直すべく定期的にワークショップを開催し(現状では半年ごとの開催を考えています)、当店のスタッフだけではなく、当店を利用される方々にも参加していただきながら、議論をしつづけることのできる場を設けていくようにできればと思っております。